中小企業診断士の仕事(公的機関経由の専門家派遣)

中小企業支援のあり方は様々ですが、公的機関を通じた「専門家派遣」もその1つです。企業側の視点から相談~支援といった流れは多く紹介されていますが、専門家側の視点は意外とありませんでした。今回の投稿では弊社での専門家派遣の流れなどを説明しております。

こんにちは。中小企業診断士の小川(森)です。

先日、「公(おおやけ)からの仕事ってどんなことしてるんですか?」という質問をいただきました。

確かに「中小企業診断士 専門家派遣」などで調べてみると、相談する側(中小企業経営者)目線でのページは自治体や支援機関ごとに存在しますが、専門家側のページはあまり見当たりませんでした。

特に地方では、弊社がある石川県と同様、専門家派遣が経営者の皆様との接点になっているケースも多いと思います。取得したて・独立したての方にとっては大事な機会になっています。

そこで今回は、実はあまり知られていない(かもしれない)専門家派遣での中小企業診断士の支援のあり方について書いていきたいと思います。

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中小企業支援について(実務前と実務後の違い)
弊社代表の西井が中小企業支援について紹介したものです。よろしければご覧ください。

 

1.専門家派遣とは

中小企業に対する支援は、大きく「公的業務」と「民間業務」に分類できます。それぞれ読んで字の如くではありますが、公的業務は商工会・商工会議所や各都道府県に設置されている中小企業支援機関などから依頼されて行う支援を指します。

そうした支援にも、セミナーや講習のように1対nの形で行うものと、1対1で行うものがあり、一般的には後者を「専門家派遣」と指すことが多いと思います。

専門家派遣は支援機関や制度によって中身が異なりますが、私が認識している一般的な特徴は以下の点です。
・1社に対して行える回数に制限がある(概ね年度内で3〜5回)
・企業のニーズ(専門家派遣でのゴール)やテーマが明確
・民間業務と比較すると単価が低い
中小企業診断士活動状況アンケート調査(令和3年5月実施)によると「公的業務がかなり高い」と答えた方の診断業務報酬平均額は37.7千円/日、「民間業務がかなり高い」と答えた方は98.3千円/日)

 

2.専門家派遣での支援の仕方(弊社での事例です)

では、実際の専門家派遣業務ではどのようなことをしているのでしょうか。
前項でお示ししたとおり、テーマはその企業が抱えている経営課題に応じて幅広いので、あくまで弊社での一例という形にはなりますが、ご紹介したいと思います。
(企業の情報が特定されないようある程度ぼかしています)

◯製造業のケース

この企業さんは、受注もたくさんあり忙しい一方で思うように利益を確保できておらず、原因と対策を知りたいという課題で専門家派遣を活用することになりました。
ケースバイケースではありますが、課題に応じて事前に決算書などの資料をいただき、その会社の現状や想定される問題点などを把握します。
また、利用できる回数に上限があるため、最短ルートで改善に結びつけることができるよう、初回でお伺いするヒアリング項目やその回数での進め方などをある程度決めておきます。

・初回

中小企業診断士の業務はお医者さんと似ており、「診断(問題に対する原因がどこにあるのかを把握するまでの工程)」と「治療・処方(問題点の改善に向けたアクション)」の2ステップに分けられます。
多くの場合、初回はヒアリングを通じた現状把握が中心です。ここできちんと知りたい情報を得られないと、間違った方向に向かっていってしまうことになるため、最も重要な段階といってもいいと思います。
一方で、経営者の方にとっては専門家とはいえ初対面のよく知らない人に自社の状況(多くの場合苦しい状況)を話していただかなければなりません。少しでも信頼していただくために、できる限りの準備をして臨みます。

弊社の場合は概ね2時間程度、会社の歴史や現状、当初伺っていた課題に限らず困っていることなどをお伺いしていきます。
2回目以降は本格的な「治療・処方」の段階に入っていくため、足りない情報については宿題のような形で後日資料などをいただくことも多いです。

この企業さんの場合は、受注は好調であるものの利益があまり確保できず、借金の返済によって資金繰りが常に苦しい状態であることなどをお伺いしました。また、工場の内部も拝見し、生産面に課題がないかチェックしました。

事業内容や受注の中身などをお伺いするなかで、受注単価を10年以上変えていないことがわかりました。このため、次回以降は適正単価の試算と受注ごとの採算性分析を進めていくことにしました。

・2回目

前回の支援後、いくつか資料をいただいて事前に製品別採算性を分析するツールを作成して臨みました。
実際にいくつかの品番を当てはめてみると、もっとも受注量が多いものが赤字になっていることがわかりました。一方、ちゃんと利益を確保できているものもあり、その差がどこで生まれているか、改善の方法はあるかといったことを話し合いました。

ここまでで問題点と改善の方向性はある程度明確になったため、最終回である次回はこのツールの活用方法をお伝えするとともに、今後設備投資した場合や賃上げした場合に適正単価がどのように変わるか、といったこともお伝えすることにしました。

・3回目(最終回)

専門家派遣では、基本的に終了したらそこでその企業との関係は一旦途切れることになります。途切れてしまって元の状態に戻ってしまっては意味がないため、支援がなくても改善を続けていけるような状態にしていくことが大事です。

最終回である今回は、ツールの使い方を理解していただくとともに、今後の設備投資計画をお伺いして実施した場合にどのように変えなければいけないか、会社が継続していくために必要な単価水準がどの程度かといったことをお伝えしました。

 

他にも業種や課題に応じて様々なアプローチがあるのですが、とても長くなってしまうため機会があればまたご紹介していきたいと思います。

 

3.民間契約(顧問契約)との違い

・回数に限りがある点

民間契約との違いは、ほぼこの1点に尽きると思います。
民間契約の場合は、契約が終了しない限りは継続していくものなので、中長期的な戦略や方向性を意識しながら支援ができます。

一方専門家派遣の場合は、多くても5回程度といった制限があり解決してほしい課題も整理された状態で臨むことになるため、まずはその課題をどのように解決するかに焦点を当てる必要があります。

このため、事前の準備や打ち合わせと打ち合わせの間の宿題や作業がより重要になってくるといってもいいと思います。

 

・自力での営業を(あまり)必要としない点

公的機関経由での専門家派遣では、企業と我々の間に支援機関があり、初期の相談や課題の抽出、適切な専門家とのマッチングを担当していただいています。
個々の専門家の特性を知っていただく必要があるため公的機関の方々との関係構築は非常に重要ではありますが、契約を獲得するためのいわゆる「営業活動」のようなものへはそれほど労力をかけなくてもいいことが多いと思います。

その分、お客様への支援に注力することができますし、結果として様々な業種、様々な会社を知るきっかけにもなりますので、個人的にはこれはメリットだと感じています。

 

・国家資格保有者としての責任

最近は中小企業診断士を目指す方、資格を取得する方が多くなり、また中小企業向けの補助金制度が充実したという背景もあったため、資格取得後は補助金申請のお手伝いをして民間契約につなげる、専門家派遣を通じていかに早く民間契約につなげるか、といった考え方の方も多くいらっしゃると聞きます。

それ自体は悪いことではないのですが、せっかく国から認められたコンサルタントとして活動しているので、収益を優先して行動するのではなく、責任を果たすという観点から行動することも大事だと考えています。

診断士などのコンサルタントを自力で雇う余力がない中小企業が多い一方で、そうした方々ならではの経営課題は多く存在します。
そうした方々でも望む方向を実現できるよう少しだけ背中を押す、もしくは一緒に走る制度の1つが専門家派遣です。
せっかく国家資格を持っているのですから、少し広い視野で行動してもいいのではないでしょうか。

 

4.おわりに

専門家派遣の実態、少しはご理解いただけましたでしょうか。
中小企業診断士は独占業務がないから…ということは昔から言われていることですが、診断士だからこそアプローチできる支援のあり方が実はたくさんあります。
そしてそれこそが、診断士ならではのやりがいに大きくつながっている部分だと常々感じています。

弊社はそうした思いを共有している士業が在籍していますので、近い思いは持っているけど経験がなくて…という方がいらっしゃいましたらぜひご連絡ください。
採用過程などにかかわらず、ぜひお話させていただければと思っております。

 

弊社(迅技術経営)では、性別や学歴に関係なく、士業資格(中小企業診断士、税理士、社会保険労務士)の取得を通じて地域のために貢献したいという方に対して、「士業育成システム」による支援を行っています。
資格を取得して一人前になった後は、自らの故郷などに支店を設け、皆様の力を還元する取り組みも行っています。

採用も随時行っておりますので、こちらの採用ページをご覧ください。

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